イタリアのヴェネツィアで始まったBIENNALE(ビエンナーレ)は、世界中からアーティストを招待して2年に1度行われる現代アート展。シドニーでは3/16から開催されている2018年の「ビエンナーレ・オブ・シドニー」に訪れました。
BIENNALE OF SYDNEY 2018(ビエンナーレ・オブ・シドニー)
BIENNALE OF SYDNEY(ビエンナーレ・オブ・シドニー)は、シドニーで1973年から行われている現代美術展。今年で45周年、21回目を迎えるこの展覧会は、アジア人として初めて、森美術館の総合プロデューサーでもある片山真実さんがキュレーションを行なっていることでも注目のイベントです。
会場は全部で7箇所あり、お馴染みのART GALLERY OF NSWやMUSEUM OF CONTEMPORARY ART、CARRIAGEWORKSでも行われています。今回は中国人アーティスト・AI WEIWEIによる巨大なインスタレーションが展示されていることでも話題の、個人的にまだ1度も訪れたことがないCOCKATOO ISLAND(コカトゥー島)に行って来ました。
フェリーでCOCKATOO ISLAND(コカトゥー島)へ
COCKATOO ISLAND(コカトゥー島)はシドニーCBD西側にある島で、CIRCULAR QUAYやBARANGAROOからフェリーに乗って10〜20分程度。今回、私達はシティレールのWINYARD駅から徒歩5分程度のバランガルー・ワーフから乗船しました。
乗船前におなじみのBARANGAROOのBOURKE STREET BAKERYでFLAT WHITEを購入。コーヒー専門店ではありませんが、個人的にはココのコーヒーは私のシドニーBEST5に入る安定の美味しさです。因みに他のお客さんもここでパンとコーヒーを購入してフェリーに乗っていたので、朝早く行かれる方はフェリーで朝ご飯というのもオススメです。
COCKATOO ISLANDの展示は10:00amからスタートなので、まだ朝の10:00前だったこともありフェリーは空いています。この日の天気予報では気温が38℃まで上がると言われていたので、船頭のデッキに座って風に吹かれていると本当に気持ちが良いです。
バランガルーからコカトゥー島までは約10分程なので、景色を見ていると本当にあっという間に着いてしまいます。象徴的な砂岩の崖と工場跡地が見えるのがCOCKATOO ISLANDです。
世界遺産の「COCKATOO ISLAND(コカトゥー島)」
元々イギリスの囚人流刑地として開拓されたオーストラリアでは、囚人達を土地の開拓やインフラ設置などマンパワーとして強制労働させていました。18haもあるシドニー湾で一番大きな島であるコカトゥー島は、かつて囚人収容施設、造船工場として使用されていた島。第二次大戦の際も軍艦などがここで建造されていたそうです。
2010年にはAUSTRALIAN CONVICT SITES(オーストラリア囚人遺跡群)の1つとして、島自体がユネスコの世界文化遺産に登録されています。
工業地域独特のインダストリアルなものが島全体に取り残されていて、それがこの島独特の雰囲気を醸し出しています。同じ元工場跡地を利用しているCARRIAGEWORKSの美しくリノベーションされたアートスペースと異なり、荒々しい無骨さが漂っています。廃墟の工場を含め島自体をアートスペースとして開放しているというところは、以前旅行で訪れた瀬戸内海の犬島を思い出しました。
INDUSTRIAL PRECINCTから鑑賞スタート
こちらには島全体で全部で25作品が展示されています。まずインフォメーション・ハブに行って無料のMAPをもらいましょう。小さい島と言っても歩いて回るにはかなり広いので、MAPがないと効率的に回れません。因みにパンフレットなども購入できますよ。
まずはINDUSTRIAL PRECINCTという工場地域に向かいました。所々トタンが剥がれていたり、ブロックが落ちていたりするまさに「ザ・工場」という佇まいです。造船所ということでとにかく規模が大きく、中に入ると天井が高い贅沢なスペースの中に10のアート作品が展示されていました。
工場の社会科見学のようでもあるし、廃墟探検のようでもあります。施設内は今でも修復工事をしているらしく、新しい材木などが置いてあり作業途中のようです。
プロモーションビデオの撮影などもできそうだなと思ったら、映画「WOLVERINE(ウルバリン)」のロケ地になっていたそうです。
YUKINORI YANAGI(柳幸典)
日本人アーティスト・柳幸典さんの「ICALOS CELL(イカロス・セル)」の展示です。この作品どこかで見たことあるな…と思っていたら、先程「コカトゥー島に似ている」と書いた犬島でアートワークを作っていたそうで、こちらは私達もその時に見たもののプロトタイプだそうです。海外で日本人の作品を見るというだけではなく、以前見た作家の作品をまた見るという偶然に少し興奮してしまいました。
コンテナを長く繋げた迷路のような空間を、2〜3人づつのグループごとに入って行きます。曲がり角ごとに鏡が仕込んであり、鏡へ歩いて行っても自分達の姿は全く見えず、前の鏡には先に入った人達、後ろの鏡には後から入って来た人の姿が見えます。中には照明はないのですが、鏡に反射された光がコンテナの奥まで照らしています。先には常に人がいて、後ろの人から常に追われ続けていて、いつまで経っても自分の姿を確認することはできないという不思議な感覚のインスタレーションでした。
AI WEIWEI(アイ・ウェイウェイ)
言わずと知れた世界的に有名な中国の現代アーティスト・AI WEIWEI氏の巨大インスタレーション「LAW OF THE JOUNEY」です。実際にトルコからギリシャへ亡命する人達が使用していた救命ボートと同じ素材で黒いゴムボートとそのボートに乗る人々を製作し、難民の壮絶な旅路を表現したものだそう。
脇のスペースでは彼の難民の描いたドキュメンタリー・ムービー『HUMAN FLOW』が流れていて、そのムービーを見ながらキャット・ウォークに登ります。
高い位置からアートを見下ろすこともできるのは、造船所という広大なロケーションならではです。よく見るとボート周辺の縁に座っている人だけではなく、中にも黒い人々がビッシリうずくまっています。ちょっと異様な光景ですが、これが現実の話なんだと思う複雑な気持ちです。
ボートの脇には文学者や詩人の言葉の引用が散りばめられていて、「想像するじゃなく行動しなければ意味がない」というようなメッセージがオーストラリアの最近の現状とも合まって、この作品を見たあと少し重い気持ちになってしまいました。
MIT JAI INN
カラフルな作品が印象的だったタイ人アーティストのMIT JAI INN氏のアート・ワークです。
絵画なのか彫刻なのか判断がつきませんが、タペストリーやボード上、水面に散りばめられたペイントが工場内の光の陰影と相まって、いい意味でポップ過ぎないシックな雰囲気です。時間の経過とともにどんどん表情を変えるので、見る時間によっては印象が変わりそうな作品ですね。
因みにこの日は今回のプロデューサーである片山真実さんが自ら作品の説明をされていました。少しだけ輪の中に入って聞いてみたりしたんですが、アートってそのアーティストや作品が作られたバックグランドを聞くと更にわかりやすいですね。今回は地図のみでマイペースに回りましたが、音声ガイドだったり、ガイドツアーだったり、パンフレットを購入してじっくり見ながら回るのも良いと思います。
この造船所は特に廃墟感が強いので、廃墟好き・工場好きの方にはたまらないと思いますよ。フォトジェニックな場所が盛り沢山なので、ビエンナーレ以外の日に来たり、雨の日に来ても雰囲気のあるイイ写真が撮れそうです。
崖の上のCONVICT PRECINCTへ移動
工場を出ると船のドックがあり、その脇を歩いて更に展示物が集まっている崖の上のCONVINCT PRECINCTへ向かいました。
ちょうど崖の下に、昔は搬入ルートとして使用されていたショートカットのトンネルがありました。砂岩を削った荒々しい雰囲気ですが、この日は本当に暑かったので中はひんやりとして気持ちよい退避スペースでした。
非常階段のようなスチールの階段を登って、崖の上の展示コーナーへ向かいました。
RYAN GANDER
こちらはRYAN GANDER氏のインスタレーション。彼の生まれ育った家の周辺の雪景色を表現したものだそうですが、パッと見た感じ龍安寺の石庭に見えたことと、アーティスト名のRYAN GANDERを「RYOAN GARDEN(龍安 提案)」を見間違えたのでタイトルを読むまでは完全に「龍安寺」だと思っていました。
ただ彼自身も日本の枯山水にインスパイアされたという記述もあったので、「龍安寺」というのはあながち間違えていなかったのかも?!
あくまで個人的な感想ですが、映像作品は基本的にドキュメンタリー的なメッセージ性は孕んでいるのものが多かった気がします。MCAでやっていたPIPILOTTIの作品でもそうでしたが、映像系は若干難解なものが多いので、個人的には空間と一緒に雰囲気を享受できる体感系(わかりやすい)のものの方が好みかな。
廃墟好きにはたまらない場所
本来であれば島の西端にあるPOWER HOUSE(そちらにも柳氏の作品あり)にも展示があったんですが、体感温度40℃以上の気温と強い日差しの照り返しでヘトヘトになってしまい、ギブアップしてしまいました。恐らくシドニーはこれから段々涼しくなっていくので問題ないとは思いますが、行かれる際は帽子、サングラス、お水を持っていくのを忘れずに!
この島にはテントが設置してあるキャンプ場もあります。この日みたいな日和の時はとてもじゃないですが、ところどころに残る造船所の名残に囲まれながらシティが見える島でキャンプっていうのも面白い体験ですね。ちゃんとトイレやシャワー、BBQスペースもありましたよ。
コカトゥー島の島内見学用のオーディオ・ガイドもありましたが、今回はアートと施設の両方で頭いっぱいになりそうだったのでやめておきました。島をじっくり見たいという方にはいいかも知れないですね。
因みにコカトゥー島の「コカトゥー」とはオーストラリアに生息する大型のオウム「キバタン」のことです。たまにバルコニーに留まっていたりしますが、結構大きいのでギョッとします。
島全体は舗装もされていますし、今もしっかりとメンテナンスがされているのでリアルな廃墟(軍艦島のような)ではありませんが、時代を感じる建物や当時造船に使用されていた錆び朽ちた機械にノスタルジーを感じてしまいます。
BIENNALE OF SYDNEYは2018/6/11まで開催されています。会場は全部で7箇所ありますが、島観光がてら少し幻想的な雰囲気が漂うCOCKATOO ISLANDを訪れてみてはいかがでしょうか。
*ビエンナーレ・オブ・シドニーの情報についてはtripnoteにも寄稿しているので、是非ご覧ください。
コメント一覧 (2件)
広い自由な空間 & 都心に近い は、文化を生み育てる財産ですね
そうですね。アートの難しいことは実はよくわかりませんが、その場の雰囲気とか全部ひっくるめて五感全体で楽しめる素敵な空間でしたよ(^_^)